戦争の論理と心理

 人はしばしば徴用されて軍隊にはいるが、進んで入隊する場合もある。好戦的愛国主義はたとえ争いのもとになる資源の不足がなくても、警戒を要するほど容易に喚起される。ヘンリ・タジェフェルをはじめとする社会心理学者は、被験者を名目的な基準(たとえばスクリーン上のドットの数を過大評価したか過小評価したか、クレーとカンディンスキーのどちらが好きかなど)によって二つのグループに分ける実験を数多く実践している。それによると各グループの成員は、ただちにもう一つのグループの人たちに敵意をもち、たとえ自分のグループにとって損失になっても、相手側に報酬を与えるのを阻止するふるまいをする。この即席の自民族中心主義は、実験者がドットや絵などの茶番をやめ、被験者の目の前で硬貨を投げてグループ分けをした場合でも起こる。行動に表れる結果は決して小さくない。ムザファー・シェリフの古典的な実験では、情緒的に安定したアメリ中流家庭の少年を選んでサマーキャンプに招き、それを任意に二つのグループに分けて、スポーツや寸劇で競わせた。するとグループは数日のうちにたがいを襲撃し、棒やバットや石を入れた靴下などで相手を痛めつけ、実験者は少年たちの身の安全のために介入を余儀なくされたのである。


スティーブン・ピンカー「心の仕組み(下)」日本放送出版協会 135頁